どっちが強いのか?もうそれだけを確認しに府中に行った。
4角には魔物が棲むなんて言われ方はしていなかった当時、おいら(と言うより競馬ファンの大多数)はどっちが勝ってどっちが2着に沈むのかだけに興味を持っていた。
方やタマモクロスは、条件戦→GⅡ・GⅢ→天皇賞・春→宝塚記念と連勝を7まで伸ばしてきた。暮れの鳴尾記念では、400万下を脱出したばかりなのに人気になり、メジロデュレンや同い年の菊花賞(2着)帰りのゴールドシチーを6馬身ちぎった。初めてTVでタマモを見た金杯では、最内を突いて直線だけで最後方から全馬を差し切った。天皇賞・春もインを突いて差し切り、宝塚記念では中距離最強だったニッポーテイオーを珍しく外から差し切った。TV実況で杉本アナに『今日は外からタマモクロス』と言われるくらいだ。そんな馬の初東上だった。
方やオグリキャップは笠松からやってきて、4歳限定GⅢ→4歳限定GⅡ→宮杯→毎日王冠と連勝を6まで伸ばしていた。NZTなんかTVカメラが直線で目いっぱい引いて撮影しなきゃいけないほどちぎった。仰天したね。地方出身であること。クラシック登録がないせいで三冠レースに出走できないこと。圧倒的な勝ち方。そのどれもが観る者を惹きつけた。
互いにもうコイツ以外に敵はいない。他はすべて倒してきた。そんな馬同士の激突だった。
2頭はともに単枠に指定された。
レースはレジェンドテイオーが逃げた。そして、次にターフビジョンに映し出された2番手の馬に場内がどよめいた。
タマモが2番手につけている!追い込みのタマモが先行してる!
タマモに騎乗していた南井克己の評判は、オグリに騎乗していた河内洋とは違って、決して名騎手と呼ばれるものではなかった。だから、よりによってここでやりやがった!という雰囲気がスタンド前に広がった。
しかし、レジェンドの作り出す速過ぎも遅過ぎもしないペースに、タマモは上手に乗っていた。かかることもなく、離れた2番手を進む。オグリは中団にいた。並びは3角を過ぎても変わることはなく、4角を迎えた。
決して速くない流れの中、中団は団子になって進んだ。オグリが中団の外目を突いてスーッと上がっていった。タマモもレジェンドとの差を詰めていった。
直線、二の脚を使って逃げ込みを図ったレジェンドをタマモが捉えて先頭に躍り出た。オグリも後方からダイナアクトレスと一緒に伸びてきた。オグリは、アクトレスを置き去りにしてレジェンドを捉え、さらにタマモとの差を詰めた。坂下では3馬身ほどあった差が坂上では1馬身近くにまで詰まった。しかし、基本的にタマモとオグリが積んでるエンジンの間に大きな差はなかった。だから坂上で脚色は一緒になった。南井の頭脳プレーの前にオグリは敗れた。馬体を並べることすらできなかった。
府中の長い直線で2頭が鼻っ面を並べて叩き合うサマを観に行ったつもりのおいらにはちょっと拍子抜けだった。より上手にタマモが流れに乗った。それだけの差だったと思う。
それまでタマモ派だったおいらは、タマモ派でなくなった。かと言ってオグリ派になったわけでもないけど。天皇賞→JC→有馬で引退が決まっているタマモ。残り2戦、どっちがどう勝つのか純粋に観たい。もうそれだけだった。
第98回天皇賞(GⅠ) 優勝馬 タマモクロス(南井克己)
2着馬 オグリキャップ(河内洋)